浦和地方裁判所 平成元年(行ウ)20号 判決 1992年5月25日
浦和市常盤一〇-五-一九
原告
岡部照夫
右訴訟代理人弁護士
尾崎正吾
浦和市常盤四-一一-九
被告
浦和税務署長 保科正次
右指定代理人
小磯武男
同
菅村敬二郎
同
萩原一夫
同
神谷宏行
同
金子秀雄
同
水野浩
同
小林政夫
同
小畑正
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し昭和六二年三月一二日付けでした昭和五八年分所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額一二九七万五三〇〇円を超える部分を取り消す。
2 被告が原告に対し昭和六二年一〇月三一日付けでした昭和五九年分から同六一年分までの所得税に係る更正処分のうち、昭和五九年分の納付すべき税額二三二三万三八〇〇円、昭和六〇年分の納付すべき税額一二三五万六三〇〇円、昭和六一年分の納付すべき税額一五九六万五八〇〇円をそれぞれ超える部分取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五八年分から同六一年分までの所得税について別紙(一)「課税処分経過表」中、該当欄記載のとおりの確定申告をした。
2 これに対して本所税務署長は、昭和五八年分については昭和六二年三月一二日付けで、昭和五九年分から同六一年分までについては昭和六二年一〇月三一日付けで、それぞれ別紙(一)「課税処分経過表」中、該当欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課決定処分」といい、両者を合せて「本件各課税処分」という。)をした。
3 本件各課税処分に対する原告の異議申立て及び本所税務署長の異議決定、並びに右異議決定に対する原告の審査請求及び関東信越国税不服審判所長の裁決の経過は別紙(一)「課税処分経過表」中、該当欄記載のとおりである。ちなみに、右審査請求の後、原告の納税地が東京都墨田区江東橋五-八-三から肩書住所地に変更されたのに伴い原処分庁は本所税務署長から被告、審査庁は東京国税不服審判所長から関東信越国税不服審判所長となった。
4 しかしながら、被告による右各年分の総所得金額の算定にはその一部に原告に帰属しない収入を含めた点で誤りがあり、本件各課税処分はこれをもとにしたものであるから違法である。
よって、原告は被告に対し、本件各課税処分のうち、右所得金額の算定の誤りに起因する部分、すなわち昭和五八年分の納付すべき税額一二九七万五三〇〇円、昭和五九年分の納付すべき税額二三二三万三八〇〇円、昭和六〇年分の納付すべき税額一二三五万六三〇〇円、昭和六一年分の納付すべき税額一五九六万五〇〇〇円をそれぞれ超える部分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の事実はいずれも認める。
三 抗弁
1 所得金額とその算定根拠
原告の昭和五八年分ないし同六一年分の所得金額とその算定根拠は次のとおりである。
(一) 昭和五八年分について
(1) 総所得金額 四三〇六万五二二二円
ア 不動産所得金額 三〇一四万一四八六円
次の総収入金額から必要経費を控除したものである。
(総収入金額) 五九二三万五七五八円
(ア) 確定申告に計上された不動産貸付けに係る賃料収入
四七三五万五七五八円
(イ) 駐車場の貸付けに係る賃料収入
四八万円
確定申告に計上された精和産業株式会社からの分である。
(ウ) 確定申告計上漏れの土地貸付けに係る賃料収入
一一四〇万円
別紙(二)物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち約一五〇〇平方メートルに係る東京都墨田区からの賃料収入一四四〇万円(月額一二〇万円)うち確定申告に計上されている分三〇〇万円を除いた金額である。
(必要経費) 二九〇九万四二七二円
(ア) 確定申告に計上された必要経費
二八五九万三五三〇円
(イ) 本件土地に敷設された舗装路面の減価償却費
五〇万〇七四二円
右金額の算出過程は別表(三)「舗装路面及び店舗減価償却費計算表」記載のとおりである。
イ 配当所得金額 二四六万〇五一〇円
確定申告に計上されたものである。
ウ 給与所得金額 九四六万三二二六円
エ 雑所得金額 一〇〇万円
渡部順子から受領した土地売買仲介謝礼金である。
(2) 分離長期譲渡所得金額 一四五一万六七五〇円
確定申告に計上されたものである。
(二) 昭和五九年分について
(1) 総所得金額 四五四七万二一七五円
ア 不動産所得金額 三三一四万一六〇〇円
次の総収入金額から必要経費を控除したものである。
(総収入金額) 六五一九万六八五五円
(ア) 確定申告に計上された不動産貸付に係る賃料収入
五七九一万〇三五五円
(イ) 駐車場の貸付けに係る賃料収入
四八万円
確定申告に計上された精和産業株式会社からの分である。
(ウ) 確定申告計上漏れの土地貸付けに係る賃料収入
一九〇万円
本件土地のうち約一五〇〇平方メートルに係る東京都墨田区からの賃料収入二四〇万円(月額一二〇万円)のうち確定申告に計上されている分五〇万円を除いた金額である。
(エ) 確定申告漏れの店舗貸付けに係る賃料収入
四九〇万六五〇〇円
別紙(二)物件目録記載の店舗(以下「本件店舗」という。付属の駐車場を含む。以下、同じ。)に係る株式会社ジョナスからの賃料収入七四〇万六五〇〇円(賃貸借は昭和五九年一〇月一二日からであり、賃料は一〇月分が八〇万六五〇〇円、一一、一二月分が各二八〇万円である。)のうち、確定申告に計上されている分二五〇万円を除いた金額である。
(必要経費) 三二〇五万五二五五円
(ア) 確定申告に計上された必要経費
二八五七万二三五九円
(イ) 舗装路面及び店舗の減価償却費
九七万六四〇五円
右金額の算出過程は別紙(三)「舗装路面及び店舗減価償却費計算表」記載のとおりである。舗装路面はその三三パーセントに相当する部分が昭和五九年二月に取り壊されたので、同年一月、二月に対応する減価償却費は舗装路面全部を基礎とし、同年三月から同年一二月までの期間に対応する減価償却費は取り壊された部分を除いた部分を基礎として、それぞれ算出した。
(ウ) 舗装路面の一部除却損失
二五〇万六四九一円
舗装路面の取得価額八四三万円から原告の所得税の計算上計上された減価償却費の累計額八三万四五七〇円を控除した残額に、舗装路面全部に対する取り壊された部分の面積の割合三三パーセントを乗じて算出したものである。
イ 配当所得金額 二四六万〇五一〇円
確定申告に計上されたものである。
ウ 給与所得金額 九八七万〇〇六五円
確定申告に計上されたものである。
(2) 分離長期譲渡所得金額 三七六九万二一八〇円
確定申告に計上されたものである。
(三) 昭和六〇年分について
(1) 総所得金額 六四六五万二四一二円
ア 不動産所得金額 五二〇一万〇七三一円
次の総収入金額から必要経費を控除したものである。
(総収入金額) 八六一八万四二七五円
(ア) 確定申告に計上された不動産貸付けに係る賃料収入
五七五四万四二七五円
(イ) 駐車場の貸付けに係る賃料収入 四四万円
確定申告に計上された精和産業株式会社からの分である。
(ウ) 確定申告計上漏れの店舗貸付けに係る賃料収入
二八二〇万円
本件店舗に係る株式会社ジョナスからの賃料収入三三六〇万円(月額二八〇万円)のち、確定申告に計上されている分五四〇万円を除いた金額である。
(必要経費) 三四一七万三五四四円
(ア) 確定申告に計上された必要経費
三三八三万八〇四七円
(イ) 舗装路面の減価償却費 三三万五四九七円
右金額の算出過程は別紙(三)「舗装路面及び店舗減価償却費計算表」記載のとおりである。
イ 配当所得金額 二四六万〇五一〇円
確定申告に計上されたものである。
ウ 給与所得金額 一〇一八万一一七一円
確定申告に計上されたものである。
(2) 分離長期譲渡所得金額 〇円
(四) 昭和六一年分について
(1) 総所得金額 七六一九万七八六三円
ア 不動産所得金額 六三〇六万〇五九五円
次の総収入金額から必要経費を控除したものである。
(総収入金額) 一億〇四一六万六一一五円
(ア) 確定申告に計上された不動産貸付けに係る賃料収入
七五九六万六一一五円
(イ) 確定申告計上漏れの店舗貸付けに係る賃料収入
二八二〇万円
本件店舗に係る株式会社ジョナスからの賃料収入三三六〇万円(月額二八〇万円)のうち、確定申告に計上されている分五四〇万円を除いた金額
(必要経費) 四一一〇万五五二〇円
(ア) 確定申告に計上された必要経費
四〇六八万二二一七円
(イ) 舗装路面の減価償却費
三三万五四九七円
右金額の算出過程は別紙(三)「舗装路面及び店舗減価償却費計算表」記載のとおりである。
(ウ) 変電設備用建物の除却損失
原告が株式会社千葉製材所に貸し付けていた変電設備用建物を昭和六一年一月に取り壊したため、右建物の昭和六〇年一二月末の残存価額八万七八〇六円を除却損失とした。
イ 配当所得金額 二四六万〇五一〇円
確定申告に計上されたものである。
ウ 給与所得金額 一〇六七万六七五八円
確定申告に計上されたものである。
(2) 分離長期譲渡所得金額 〇円
2 本件土地よ係る東京都墨田区からの、本件店舗に係る株式会社ジョナスからの各賃料収入を原告に帰属するとしたことの根拠
(一) 本件土地及びその上に建築された本件店舗は原告の所有のものである。しかし、原告は、東京都墨田区に対して本件土地のうち約一五〇〇平方メートルを、株式会社ジョナスに対して本件店舗をそれぞれ賃貸し、賃料収入を得たのは訴外辻村屋木材株式会社(以下「訴外会社」という。)であって、原告ではないとして、右賃料収入をその所得税に係る確定申告に計上しなかった。訴外会社は昭和五六年四月一五日に設立されたのであるが、その設立以前には昭和二三年一月に設立され、同五六年三月三一日に解散(同年六月三〇日清算結了)した訴外会社と同名の会社(以下「旧会社」という。)が存在した。旧会社は、原告から本件土地上にあった工場建物及びその付属施設を賃借して製材業を営んでいたものであるが、原告は、旧会社の解散及び訴外会社の設立に伴う右工場建物等の賃貸借に関し次のとおり主張する。すなわち、(1)訴外会社は、その設立に伴い旧会社から、原告との間の右工場建物等の賃貸借における賃借人としての権利義務を含めてその営業全部の譲渡を受けた、(2)そして、訴外会社は、その設立中の昭和五六年四月一日、原告との間で、改めて右工場建物等について賃貸借契約を結んだが、原告と訴外会社とは、昭和五七年三月一日付けをもって右賃貸借契約を合意解約した、(3)その際、原告は訴外会社に対し、右工場建物等からの立退補償金として二億五二〇〇万円を支払うことを約したが、これを一括して支払うことができなかったので、向う一五年間に分割して支払うこととし、その支払方法として、原告は訴外会社に対し、本件土地及びその上に原告が後に建築する建物(本件店舗)を右土地及び建物の固定資産税相当額で賃貸し、訴外会社は第三者に対してこれを正常な賃料で転貸し、後者と前者との差額を訴外会社が取得することにより右分割払の支払金に充てることとした、(4)したがって、右差額金は訴外会社の収入であって、原告の収入ではない、というのである。しかしながら、訴外会社が旧会社からその営業全部を譲り受けたことを証する書面は存しないし、訴外会社が、旧会社に対しその対価を支払った事実はない。訴外会社と原告間の右工場建物等に係る賃貸借契約書は昭和五六年四月一日付けになっているが、これに貼付されている収入印紙はそれより後に発行されたものであり、訴外会社が設立されたのも、それより後の同月一五日であって、これらの事実からすると、右賃貸借契約書は後に日付をさかのぼらせて作成されたものである。また、訴外会社はその代表者である原告とその二人の親族で発行済株式の七〇パーセントを超える株式を保有する同族会社であり、訴外会社は、設立以来、欠損金を出し続けており、当期欠損金及び前期からの繰越欠損金をその事業年度の所得金額から控除すると納付すべき法人税が発生しないという経営状態にあり、これらのことからすれば、原告主張の一連の事実は、原告が本件土地及び本件店舗を第三者に賃貸することにより得られる賃料収入に係る所得税を免れるために作出した架空の事実である。
(二) 仮に、右一連の事実が架空のものではないとしても、これによれば、原告は賃貸借契約の合意解約に伴い、訴外会社に対して二億五二〇〇万円の立退補償金の支払債務を負担したことになり、訴外会社が取得する前記賃料の差額金はその都度右立退補償金の支払に充てられるのであるから、原告の支払債務はその分だけ減少していくわけである。したがって、右債務の減少による利益は、本件土地及び本件店舗を第三者に賃貸したことにより原告に生じた収入であり、各年分の原告の不動産所得金額を算定する場合、総収入金額に算入されるべきものである。
(三) のみならず、原告主張の右一連の事実は、対当、独立の、相互に特殊な関係にない者同士の間で行われる通常の経済取引と対比してみると、極めて不自然かつ不合理であり、異常というほかはない。すなわち、一般に、立退料というのは、賃貸人が自らの都合で賃借人に対し貸借の目的物件である土地又は建物から退去を求める場合、そのために賃借人が受ける不利益を補填する目的で賃貸人から賃借人に対して支払われるものである。本件土地が所在する付近一帯はもと「木場」と称され、木材の集積地として、多くの木材業者がここで製材その他の事業を営んでいた。旧会社及びその営業がその営業を引き継いだとする訴外会社もこのような木材業者の一人である。ところが、後に、この「木場」は東京都の都市計画の一環として別の場所(「新木場」)に移された。訴外会社は昭和五六年一一月三〇日、この「新木場」に土地とその上の工場建物及び事務所建物を取得し、ここに事業の本拠を移したので、本件土地上の工場建物等を使用する必要がなくなった。原告と訴外会社とが右工場建物等に係る賃貸借契約を合意解約したのはそのためである。そうすると、訴外会社が右工場建物等から立ち退くことになったのは賃借人の都合によるものであり、それにもかかわらず、賃貸人である原告が訴外会社に対し二億五二〇〇万円という高額の立退補償金を支払うというのは、いかに本件土地の時価が高額にのぼるとはいえ、極めて不自然かつ不合理であり、正常な経済観念とは相容れないものである。また、立退料というのは、通常、貸借の目的物件である土地又は建物から退去する賃借人が移転先を確保し、移転を完了してそこでの事業や生活を始めるまでの費用等に充てられるのであるから、一時金で支払われるべきものである。そころが、原告が訴外会社に対して支払う立退補償金は向う一五年間にわたって分割して支払われるというのであり、それにもかかわらず、利息についての定めはなく、これらの点もまた、甚だしく不自然かつ不合理というほかなはない。しかも、その支払方法は、訴外会社が原告から賃借する本件土地及び本件店舗を第三者に転貸し、訴外会社が第三者から支払を受ける賃料と訴外会社が原告に対して支払う賃料との差額を訴外会社が取得することにより右分割払の支払金に充てるというものであり、本件土地上に存した工場建物等につき賃借権を有しただけの訴外会社が本件土地及び本件店舗につき転貸権まで取得することを前提とした右支払方法も不自然かつ不合理である。原告は右の方法により訴外会社に対し実際に次のような利益を供与した。すなわち、訴外会社は東京都墨田区に対し、昭和五七年五月一日から同五九年二月二九日までの間、本件土地のうち約一五〇〇平方メートルを区立菊川小学校の運動場として賃貸し、一か月一二〇万円(年額一三二〇万円)の賃料の支払を受けた。一方、訴外会社が原告に対し、その間に右土地に係る固定資産税相当額の賃料として支払ったのは一か月二五万円(年額三〇〇万円)であるから、訴外会社は差引き一か月九五万円の利益を得たことになる。また、訴外会社は株式会社ジョナスに対し、昭和五九年一〇月一二日以降、本件店舗を賃料一か月二八〇万円(年額三三六〇万円)で賃貸しており、一方、訴外会社が原告に対し、本件店舗に係る固定資産税相当額の賃料として支払ったのは一か月四五万円(年額五四〇万円)であるから、訴外会社は差引き一か月二三五万円の利益を得ることになる。
ところで、前記のとおり、原告は訴外会社の代表者であり、訴外会社は、その発行済株式の七〇パーセントを超える株式を原告とその二人の親族で保有する同族会社である(法人税法第二条第一〇号)。そして、訴外会社はその年の四月一日から翌年の三月三一日までを一事業年度としているところ、訴外会社の昭和五八年の事業年度における(1)繰越欠損金控除前の申告所得金額は三三万二〇九六円であるが、これには(2)訴外会社が本件土地及び本件店舗を転貸したことによって得た賃料収入と原告に対して支払った賃料との差額金に相当する収益一〇四五万円が含まれているので、これがなかったとすれば、(3)所得金額は一〇一一万七九〇四円の欠損となる。以下、昭和五九年の事業年度においては、(1)が二六六万二八八五円の欠損、(2)が一〇四五万円、(3)が一三一一万二八八五円の欠損となり、昭和六〇年の事業年度においては、(1)が一九四万七四八七円の欠損、(2)が一四四〇万六五〇〇円、(3)が一六三五万三九八七円の欠損となり、昭和六一年の事業年度においては、(1)が五三三万四八六一円、(2)が二八二〇万円、(3)が二二八六万五一三九円の欠損となり、昭和六二年の事業年度においては(1)が一〇四八万五九五九円、(2)が二八二〇万円、(3)が一七七一万四〇四一円の欠損となる。このことは、原告と訴外会社との間で成立した前記の一連の不自然かつ不合理な契約関係により、その所得者である原告が直接第三者に対して本件土地及び本件店舗を賃貸した場合よりも原告の不動産所得金額に係る総収入金額を減少させ、その結果、原告の所得税の負担を不当に軽減させるものである。これは訴外会社が同族会社であり、原告がその代表者であるからできたのであるから、被告は、所得税法第一五七条第一項第一号に基づき訴外会社と東京都墨田区間の本件土地に係る賃貸借契約並びに訴外会社と株式会社ジョナス間の本件店舗に係る賃貸借契約を原告との間のそれに引き直し、その賃料収入が原告に帰属するものとして所得金額を計算することができるというべきである。
3 本件各課税処分の適法性
(一) 本件各更正処分のもとになった原告の各年分の総所得金額及び分離長期譲渡所得金額はいずれも前記のようにして算定されたものであるから、本件各更正処分は適法である。
(二) 本件各過少申告加算税賦課決定処分のうち、昭和五八年分、同五九年分及び同六一年分については、国税通則法第六五条第一項(昭和五八年分については、昭和五九年法律第五号による改正前のもの。昭和五九年分及び同六一年分については、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。)の規定に基づき、当該各年分に係る各更正処分により新たに納付すべき税額(ただし、同法第一一八条第三項により一万円未満の端数切捨て後のもの。)にそれぞれ一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する金額を、昭和六〇年分については、同法第六五条第一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。)の規定に基づき、昭和六〇年分の更正処分により新たに納付すべき税額(ただし、同法第一一八条第三項により一万円未満の端数切捨て後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に、同条第二項の規定に基づき、右新たに納付すべき税額のうち、期限内申告税額(源泉徴収税額を含む。)に相当する金額を超える金額(ただし、同第一一八条第三項により一万円未満の端数切捨て後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額を加算した金額を、それぞれ賦課決定したのであるから、本件各過少申告加算税賦課決定処分は適法である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実のうち、被告が、原告の確定申告に計上されたものと主張する金額は認めるが、本件土地に係る東京都墨田区からの賃料収入及び本件店舗に係る株式会社ジョナスからの賃料収入が原告に帰属することは争う。
2 同2、3の主張は争う。
(原告の主張)
(一) 旧会社は、原告の祖父が大正年代から東京・深川の「木場」で営んでいた木材業を、昭和二三年一月株式会社に改組したものである。ところが、昭和五六年に至り、「木場」がほかの場所に移転されることになり、旧会社は、それまで貯木場として利用していた河川の占有権を放棄することを余儀なくされ、その補償金として東京都から旧会社に対し七〇〇〇万円を支払うことになった。当時、旧会社の代表者であった原告は、これを機会に、祖父の時代から株主、役員及び従業員を整理する目的で一旦旧会社を解散することとし、右補償金の交付を受けた後の昭和五六年三月三一日旧会社を解散し、同年四月一五日訴外会社を設立した。そして、訴外会社は旧会社の営業全部の譲渡を受けこれを承継したのであり、このような経緯からすれば、訴外会社が原告と旧会社間の本件土地上に存した工場建物等に係る賃貸借における賃借人としての地位も承継したことは明らかであって、ことさらに訴外会社が旧会社から承継する営業から右賃借人としての地位を除外する理由はなく、この点に関する被告の主張は末梢的なことをとりあげて右賃借人としての地位承継の事実を否定しようとするにすぎない。
(二) 「木場」の移転に伴い、訴外会社は昭和五六年一一月三〇日、東京都江東区内の「新木場」に土地とその上の工場建物及び事務所建物を取得してここを営業の本拠地とした。そこで、原告と訴外会社とは昭和五七年三月一日、本件土地上の工場建物等に係る賃貸借契約を合意解約した。その際、原告は訴外会社に対し、右工場建物等の明け渡しを受ける代償として二億五二〇〇万円を支払うことを約したのであるが、右のように、訴外会社が原告に対し右工場建物等を明け渡すことになったのは「木場」の移転という客観的事情の変更によるものであって、訴外会社にとっては止むを得ないことであり、単なる訴外会社の内部事情によるものではない。当時の本件土地の時価は一〇億円を下るものではなく、訴外会社から右工場建物等の明渡しを受けることにより原告は本件土地の使用収益権を回復し、多大の利益を受けるわけであり、訴外会社が右工場建物等を明け渡すことになった事情に照らせば、原告が訴外会社に対し立退補償金として二億五二〇〇万円を支払うことにしたのは、一般の経済観念に徴して、必ずしも不合理なことではない。もっとも、右立退補償金が向う一五年間にわたり分割して支払われることになったこと及び右分割金が被告主張の方法で支払われることになったことは事実であるが、原告には本件土地を有効に利用し、そこからあがる収益によってこれを支払うほかに資力があかったのであるから、右のような支払方法をとったことは止むを得ないことであり、分割支払に伴う利息金については原告と訴外会社間に後日協議する旨の取決めがあった。
(三) 原告が立退補償金の支払に関し訴外会社と約したのは、原告が訴外会社に対し一五年以内の期間本件土地及び本件店舗の管理運営を委託し、訴外会社がこれによって得る収益金に相当する金額を原告がその発生の都度立退補償金として支払ったこととし、その合計額が二億五二〇〇万円に達したとき、訴外会社は原告に対し右管理運営を返還するというものである。したがって、訴外会社が得る収益金は原告の側からすれば、その発生の都度、これに相当する立退補償金という費用を支出したことになるのであり、これが原告の利益となるものではない。この点に関する被告の主張は、賃貸借契約の合意解約に伴い、原告が訴外会社に対し二億五二〇〇万円の立退補償金の支払債務を負担したことを前提とするのであって、原告と訴外会社間の約定の趣旨を正解しないものである。また、仮に、被告主張のように、右立退補償金は原告がその支払債務を負担した昭和五七年分の必要経費に算入すべきものであれば、原告の同年分の所得税の確定申告にはこれが必要経費に計上されていないのであるから、被告は、その主張に基づいて、原告の同年分の所得税について還付決定をすべきであるのに、これをしていない。
(四) 原告の主張を容認すれば、訴外会社が第三者に対して本件土地及び本件店舗を転貸することによって得た収益については、訴外会社に対して法人税が課税されないことになるが、それは、たまたま、訴外会社が営業収支において欠損を出した結果であり、もし、利益を出していたとすれば、右転貸による利益は営業利益に加算されて課税の対象となったのである。そうとすれば、右転貸による利益について訴外会社と原告のいずれに対しても課税されないことになっても、それは結果的にそうなっただけのことであって、原告と訴外間の立退間の立退補償金の支払に関する約定が原告の所得税の負担の不当に軽減させることになるわけではない。
第三証拠
本件訴訟記録中の「書証目録」及び「証人等目録」に記載のとおりである。
理由
一 請求原因1ないし3の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、本件各課税処分の適否について検討するのに、被告が原告の昭和五八年分から同六一年分までの所得金額の算定根拠として主張する収入金額、必要経費等の金額のうち、原告の確定申告に計上されたものについては原告もこれを認めて争わないところであり、被告が必要経費として算出した舗装路面及び店舗の減価償却費、変電設備用建物の除却損失については原告においてことさらにこれを争うものでないことは弁論の全趣旨に照らして明らかである。
そうすると、本件訴訟における唯一の争点は、訴外会社が東京都墨田区に対し本件土地のうち約一五〇〇平方メートルを、株式会社ジョナスに対して本件店舗をそれぞれ転貸し、これによって得た賃料収入と訴外会社が原告に対して支払った賃料との差額に相当する収益を、原告の各年分の所得金額の計算上、原告の収入とすることができるかどうかにあるので、以下、この点について審究する。
いずれも成立に争いのない乙第一号証、第一〇号証、原本の存在及び成立とも争いのない乙第六号証の二、原告の本人尋問の結果といずれもこれにより真正に成立したと認められる甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 本件土地は原告がその先代から受け継いでこれを所有しているものであり、本件店舗は原告が昭和五九年ころ本件土地上に建築して所有するに至ったものである。本件土地を含む付近一帯の地域はもと「木場」と称され、木材の集積地として、多くの木材業者がここで製材その他の事業を営んでいた。旧会社は原告の祖父が本件土地で営んでいた木材業を、父親の時代の昭和二三年一月八日、株式会社に改組したものであり、原告は、父親の跡を継いで、その代表者として事業の経営にあたっていた。
2 ところが、昭和五六年に至り、東京都の都市計画の一環として、「木場」がほかの場所に移転されることになり、旧会社は、それまで貯木場として利用していた河川の占有権を法規することを余儀なくされ、その補償金として東京都から訴外会社に対し七〇〇〇万円が支払われることになった。そこで、原告は、これを機会に、古くからの株主、役員及び従業員を整理する目的で一旦旧会社を解散することとし、右補償金の交付を受けた後の昭和五六年三月三一日旧会社を解散し、同年四月一五日訴外会社を設立した。そして、訴外会社は、旧会社が使用していた本件土地上の工場建物及びその付属施設(これを本件土地とともに原告の所有であった)についての原告との間の貸借関係を含めて、旧会社の一切の財産関係を承継した。そのうえで、原告は、右工場建物等について訴外会社との間の貸借関係を明らかにするため、訴外会社との間で、これにつき改めて昭和五六年四月一日付けで賃貸借契約を締結した。もっとも、この時点では、訴外会社の設立手続はいまだ完了していなかったが、右賃貸借契約は旧会社の解散との間に日時をおかないようにするため訴外会社の成立(同月一五日付け)後に日付をさかのぼらせたものである。
3 「木場」が移転したあとも、訴外会社は、しばらくの間、右工場建物等で事業を営んでいたが、「木場」の移転先の「新木場」に土地とその上の工場建物及び事務所建物を取得することができたので、昭和五六年一一月ころ営業の本拠地をここに移し、そのため本件土地上の工場建物等を使用する必要はなくなった。そこで、原告と訴外会社とは昭和五七年三月一日、右工場建物等に係る賃貸借契約を合意解約した。その際、原告は訴外会社に対し右工場建物等からの立退補償金として二億五二〇〇万円を支払うこととしたのであるが、その支払方法は、向う一五年間にわたる分割払いとし、その分割支払金については、原告が訴外会社に対し本件土地及び後にその上に建築する建物等の施設を低額の賃料で賃貸し、訴外会社が第三者に対してこれを正常の賃料で転貸することにより、後者と前社の各賃料の差額に相当する収益をもってこれに充てることとした。
4 こうして、訴外会社は、東京都墨田区に対して昭和五七年五月一日から同五八年三月三一日までの間、本件土地のうち約一五〇〇平方メートルを区立菊川小学校の運動場用地として、株式会社ジョナスに対して本件店舗の建築完成後の昭和五九年一〇月一二日以降、これを同会社が経営するファミリーレストランの店舗として、それぞれ転貸し賃料の支払を受けた。そして、一方、訴外会社は、原告に対しては、双方の間で約された、おおよそ本件土地及び本件店舗の固定資産税に相当する賃料を支払い、その結果、原告の昭和五八年分から同六一年分までの各所得税の計算期間中に、前記の各賃料の差額に相当する収益として、被告が原告の所得税について各年分の確定申告計上漏れとして主張する各金額の収益を取得した。しかしながら、訴外会社は、設立以来、いずれの事業年度(その年の四月一日から翌年の三月三一日まで)においても営業収支において欠損金を出す経営状態が続いており、いずれの事業年度においても前期からの繰越欠損金と当期欠損金とを合せた金額は前記の各賃料の差額に相当する収益の金額を上回っており、右各収益について法人税が賦課される余地はなかった。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右事実によれば、訴外会社が「新木場」に土地と工場用建物等を取得して移転するためには多額の資金を必要としたはずであり、一方、原告が訴外会社から本件土地上の工場建物等の明渡しを受けることになれば、原告としては、その敷地である本件土地の有効利用を図ることによって多くの収益をあげることも可能となるわけであるから、賃貸契約の合意解約に際し、原告が訴外会社に対し立退補償金の支払を約したことにも理由がないとはいえず、直ちにこれを不自然かく不合理な経済行為と断定することはできない。しかしながら、そうであるとすれば、原告としては、右工場建物等を明渡しを受けたあと、その敷地である本件土地を有効に活用し、その収益によって右立退補償金を支払っていくのが物事の道理であり、本件において、原告が訴外会社に対し低額の賃料で本件土地及び本件店舗を賃貸し、訴外会社が第三者に対してこれを正常の賃料で転貸することとしたことには何らの合理的理由を見出すことができない。そればかりか、訴外会社が設立以来その営業収支において多くの欠損金を出していることからすれば、右後者のような措置を容認することは、前者のような方法によった場合に比して、原告の所得税の負担を不当に軽減させることは明白である。そして、訴外会社がその代表者である原告と二人の親族によって発行済株式の七〇パーセントを超える株式が保有されている同族会社であることは弁論の全趣旨に照らして明らかであり、これによれば、被告は、所得税法第一五七条第一項に基づき、本件各更正処分をするについて、原告と訴外会社間の立退補償金の支払に関する前認定の約定にかかわらず、これによって訴外会社が取得することとなる収益を、原告の各年分の所得税額の計算上、原告の収入と認定することができるのであり、そうしたことに違法はないというべきである。
被告が主張する原告の各年分の所得金額の算定について右のほかには特段の争いがないことは前述したとおりであり、本件各更正処分は被告主張の算定結果をもとにしてされたものであるから適法である。
また、本件各過少申告加算税賦課決定処分は、被告主張のとおり、国税通則法の規定に基づき、本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった税額についてされたものであるから適法である。
三 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 小林敬子 裁判官 佐久間健吉)
別紙(一)課税処分経過表
昭和五八年分
<省略>
昭和五九年分
<省略>
昭和六〇年分
<省略>
昭和六一年分
<省略>
別紙(二)
物件目録
東京都墨田区江東橋五丁目四番四
一 宅地 二、一二二・五四平方メートル
東京都墨田区江東橋五丁目四番四号
一 鉄筋平屋建スレート葦店舗 一棟
床面積約二七八・六平方メートル
以上
別紙(三) 舗装路面及び店舗減価償却費計算表
(昭和58年分)
<省略>
(昭和59年分)
<省略>
(昭和58年分)
<省略>
(昭和59年分)
<省略>